●
湿原の木道におかれたベンチのうえで、鈍くかがやく鉄鋼のように仰向けになっていたのは、眼をさましたばかりのわたしに違いなかった。
身体はすこぶる冷えきっているのに、鳥肌も、悴みも、震えもなく、透きとおった青の単色に眼差しをむけて、直線をこしらえる煙のような、起床。
わたしは、いつもの格好─白のマオカラー・シャツに暗めのテーラード・ジャケットをあわせ、アイヴォリーの色をしたスラックスをつけ、茶色のタッセル・ローファーを履いている─をしていた。ベンチから立ちあがり、衣服のしわを調える。
わたしの前後には木道がまっすぐにのびていて、左右は湿原と雪山にかこまれていた。
前者(木道)をx軸、後者(湿原)をy軸と...