ゆるせ、自我−存在へ。
1
晩 銀白にかぶさり 秋分
風鑼 そのひびきを雲夜にひそめ
まもなく 野分の撥は下ろされん
浄夜をこれまでいくつ聴いてきたのだろうか
ブーレーズが模範か いや バレンボイムのほうがよい
箱にかくれたストリングスのほこりをはらうように
いつかをおもいだす・・・しかし原石の美はけがれない
夏の午後への耽読
屋根瓦のうえに 夜はおりる
星の欠片に 足を滑らせる
瓦のした 土漆喰が初めて浄められた夜を知ったとき
わたしは地上の子でしたと 梁の甍にいう
鬼の情けとはなんだ おなじ土にいながら
業火の洗礼を浴びたか否か
さよう わたしだけが 素のままだ
弓の弧がなだめ
アルノルト・シェーンベルクは昼の窓をとざした
ふりむいて 刮目せよ と説く
その窓は スティーヴ・ライヒの幻想までひらかれないからだ
予感は不安を孕むしかないか
稲穂はたおれたまま黄金に
2
えらくせいひつなバルなら 自尊心もきずつけられまい と
きのことビル・エヴァンスを肴に
シャルトリューズ・ヴェールのストレートをひとつ もうひとつ
くさびらは 秋をかたどる神秘にして 分類学のかなめである
クイーンは いま南半球にいってしまった 春をわすれず
陽光と湿陰の往来 一年を瞬間に帰し
昏睡ひと 昏睡のひと
電気的誘惑は 不可逆反応としての電離へ
3
わたしはもっている
学舎にある
役所にある
富んだ家にある
ふるい家にある
まいにち食糧を摂る
およそ30日にいちど食糧を摂る
ふたつの爪からうたう
蝸牛からうたう
プラスティック・レスの躯をしている
事変のおこるときに しっかりと 心臓がとまる
有限性のあとに 存在そのものをかんがえる
ひきこもりが そらをみあげる
そして それは14時46分をさしている
4
てはじめに
国産の新鮮な にんじん じゃがいも たまねぎ にく
それぞれのサイズに
つぎ
サラダ油をひいたフライパンに 火のとおらないじゅんにいれる
なんかついた
つぎ
だし さけ みりん さとう しょうゆ 湯煮
あくぬき 花型の和食器にもりつける
夫婦箸のうち一膳とって
暖色にあわせたたたずまい
すこしのお塩でじょうひんに
さとうにはない たまねぎとにんじんの甘味
じゃがいものやわらかさにつつまれたいんだなわたしは
のきさきからそとへでて たいようをずっとみあげる
くろくなるまで
5
1 野分きの浄夜
2 清談妄想
3 3.11のペンダラム
4 はじめてひとをたべたときのかんそう
5 dear Mr./Ms."Es" (image)